沈没船から発見された奇跡のワイン
今回のテーマは『沈没船から発見された奇跡のワイン』です。
一般的に高級なワインになる程、飲み頃を迎えるまでに時間がかかると言われており、収穫されてから10~20年程度熟成させる事でやっと飲み頃を迎えるワインもあります。
その熟成方法はコルクの乾かない湿度平均70%程度、温度13(±2)℃の、暗闇が理想とされていますが、今回ご紹介するのはちょっと変わった、「海の底でワインを熟成させるもの」です。
事件その①、海底で80年の時を過ごした伝説のワイン『エドッシック・モノポール』
1916年、第一次世界大戦中、ロシア皇帝ニコライⅡ世からフィンランドで駐留するロシア軍のために、1907年ビンテージのシャンパーニュ「エドシック・モノポール」3000本、ブルゴーニュワインやコニャックなどがオーダーされました。これらのワインなどを積んだジョンコピング号は、サンクトペテルブルグへ向け出航し、スウェーデン沖を航海中にドイツの潜水艦Uボートにより撃沈されました。そして時がたち1998年、スウェーデン沖の海底スキャンで、沈んでいた貨物船ジョンコピング号が確認され、ジョンコピング号の引き上げ作業が行われました。積載されていたブルゴーニュワインやコニャックなどのアルコール類はすべて不良品になっていたにも関わらず、海底で80年もの時を過ごした「エドシック・モノポール」だけは非常にいいコンディションで、抜栓した時にはまだまだ若々しい状態のままでした。
ジョンコピング号と共に海底で80年の時を過ごした「エドシック・モノポール」には、偶然が重なり合い「奇跡」が起こっていたのです。ジョンコピング号が沈んでいた海底64mという深さは、ワインを劣化させる原因となる「陽の光」を遮り、シャンパーニュの保存に適した「水温」を維持し、シャンパーニュボトルの中のガス圧と同じ「水圧」を偶然にも持ち合わせ、海底の沈没船はシャンパーニュにとって、最適の保存環境だったのです。そして、「エドシック・モノポール」自体が質の高い長期熟成に耐えうるシャンパーニュであったことから、いくつかの偶然的な奇跡が重なり合う中でほぼ完璧な保存状態のまま、1998年に引き上げられるまでの永い80年もの眠りについていたのです。
引き揚げ直後の試飲で、世界的なワイン評論家のクロード・マラティエ氏は『驚くべき事に、このエドシック・モノポールには、まだ若々しい果実味(カリンやアプリコット)と、バブルも存在しています。古酒の場合、開栓後に数分で劣化するということも珍しくありませんが、そのような短命さも見当たりません。今後、再び地上で数年間保存したとしても全く問題ありません』とエドシック・モノポールを表現しました。深海で長い時間熟成した状態で姿を現した「エドシック・モノポール」は"奇跡のシャンパーニュ"として世界中でニュースになりました。
事件その②、200年前の難破船から引き上げられたシャンパーニュ、そのお味は?
2010年8月、フィンランド沖の海底に沈んでいた難破船から168本のスパークリングワインが引き上げられました。引き上げられたワインはシャンパーニュで、1829年にジャクソンに統合された今ななきシャンパンメーカー『Juglar』のものと、皆さんご存知の『ヴーヴクリコ』のものだとされました。これらのワインは、フランスのルイ16世からロシア帝国に贈られたものだと言われています。
さて気になるその中身ですが、引き上げ直後にフィンランドのマスターオブワインのエシ・アヴェランが抜栓しテイスティングしました。それによると、「どちらも非常に生き生きとしてフレッシュだった。予想したとおり甘口で、輝く黄金色をして、蜂蜜の香りとともに、トーストや農場のような香りがした。」と言っていたそうです。
そのうちヴーヴクリコのものは、1830年代前半のノンヴィンテージであると専門家によって確認されたということだが、そうだとすると180年ほど海底に眠っていたことになります。
ワインが眠っていた環境は、水深55メートルで水温は5℃の真っ暗な状態だったといいます。さらに、現場にはまだいくつかのロットのシャンパーニュが今も眠っているとされるが、その難破船の沈んでいる場所は秘密にされているといいます。しかしその後この時引き上げられたシャンパーニュはオークションに売りに出されました。
日本の海底でワイン熟成プロジェクト
引き揚げられる度、世界のトップニュースとなり、人々に憧れとロマンを与えてきた海と酒の熟成の不思議なエピソード。そんなロマンチックな願いを再現しようと2年に及ぶ実験の末、本当に海底に沈めて熟成させたワインが存在します。しかもそれは海外じゃなく日本でです。
その幻のワインの名前は「SUBRINA」といいます。伊豆の加茂郡南伊豆中木沖の海底20メートルの位置にあるワインセラーにて約7カ月間熟成させられました。商品はA、B、Cと3タイプありますが、中身は同じです。
国際評価の高い南アフリカ「クルーフ社シラーズ種」を使用したもので、ワインとしても大変貴重なものだそうです。この時海底に沈められたのは6000本。ボトルの状態によって3種類のタイプにわけられました。
海底貯蔵柵の最上段に貯蔵され石灰藻やフジツボが多く付着した最も高価なAタイプ(1万2千円)、中間部に貯蔵されていたため付着物がほとんどないBタイプ(1万円)、最下段で貯蔵され金属柵のサビなどが付着したCタイプ(1万円)。AとCは全体の10分の1だけの希少部位なのだそうです。
まとめ
海の底では、地上と時間の流れが違うのでしょうか?時間に耐えることで美味しく変化してしまうこの希少な特質を持ったワインですが、耐えられる時間にも限界があります。海の底では、そんな時間を飛び超えらせるのかもしれませんね。未だ解明されていない謎・・・とても魅力的です。