酒の神とはどんなもの?西洋や日本で伝わる酒の神様について解説
酒の神様とは?
酒の神様で有名なのはローマ神話のバッカスですが、日本でも古事記に酒の神の話が記されています。太古の昔から伝わる酒の神とは、どのような神様なのでしょうか?
西洋ではバッカス
ローマ神話のバッカスは、ギリシャ神話ではディオニュソスと呼ばれています。バッカスは太陽神のゼウスと人間の間に生まれた子どもです。母親はゼウスが誤って出した炎に焼かれ、残った子宮からバッカスが生まれました。 そんな悲しい出来事で誕生したバッカスは、ギリシャ悲劇では「豊穣と酒と狂乱の神」として描かれています。バッカスはぶどう栽培とワイン造りを伝えるため各国を放浪し、魔術や呪術を使って狂乱に陥れながら信者を獲得していきました。バッカスの故郷であるテーバイの王ペンテウスは、バッカスの教えの虜になった自分の母親に狂気のなかで殺されてしまいます。 バッカスにまつわる残酷な悲劇は、お酒につきものの狂気を表現しているのかもしれませんね。ワインの神様
そんなバッカスはワインの神様として有名です。ぶどうの栽培やワインの製造方法を考え出し、それを各国に広めたとされています。 バッカスの姿は美しい男性として数々の絵画が描かれており、見たことがある人も多いでしょう。フランスの有名シャトーが手がけるワインには、ラベルにバッカスの絵が描かれているものもあります。古事記に登場
現存する日本最古の歴史書「古事記」には、スサノヲノミコトがヤマタノオロチを退治するために造らせたというお酒が登場します。八塩折之酒(やしおりのさけ)という名前で、日本書紀にも登場するお酒です。 八塩折之酒の「八」は「たくさん」という意味で、八百万の神と同じ意味合いになります。「しお」は日本酒でいう熟成したもろみを搾った汁のことで、「おり」は何度も繰り返すという意味です。それぞれの意味から、八塩折之酒とはもろみを造っては絞り、また新しくもろみを造っては絞るということを何度も繰り返して造ったお酒ということになります。 このお酒の原料については日本書紀に、衆菓釀 (たくさんの木の実・果物・雑穀を醸造する)という記述があるため、米ではないことは確かでしょう。日本酒ではなかったわけですが、どのような木の実や果物だったのかはわからず、お酒の味は謎のままです。神事とお酒にまつわる言葉
日本では古くから、神様と人がコミュニケーションをとる神事や祭礼が行われてきました。それらの神事にはお酒がつきもので、お酒にまつわる言葉がたくさんあります。それぞれの言葉にどのような意味が込められているのか、見ていきましょう。
日本の神事に欠かせない「御神酒」
御神酒(おみき)は神事や祭礼で神様にお供えするお酒のことです。御神酒は神饌(しんせん:神様に献上する食事)のひとつとして供えられます。供えられた後の御神酒は聖なるお酒になり、祭礼のあとにお下がりとしてふるまわれるのが決まりです。 御神酒を正式に供える場合は白酒、黒酒、清酒、濁酒の4種類を揃えなければなりません。しかし、近年では伊勢神宮などを除いて簡略化され、清酒のみがお供えされています。神様とコミュニケーションする「直会」
直会(なおらい)とは、祭礼が終了したあと、神職や参列者がお供えした食事と御神酒をいただく宴会のことです。 直会には神様にお供えしたことで食事や御神酒に霊力がやどり、その力を分けていただくという意味が込められています。また、お供えしたものをいただくことは、神と人が一体となるとも考えられているのです。 また「直る」には「もとに戻る」という意味もあります。祭礼に携わる神職は身を清めて通常の生活とは異なる制約を受けますが、直会をもってすべての行事を終え、もとの世界に戻るというわけです。お祝いや儀式で行う「盃事」
盃事(さかずきごと)は盃を用いて酒を酌み交わすことで、神様と人を結びつける意味合いがあるものです。神道の結婚式では、列席した両家の家族・親族が揃って一同に盃を口にする儀式が行われます。 かつては親子盃や兄弟盃というものが存在し、擬制的な親子関係、兄弟関係を結ぶ手段に行われてきました。今でも任侠の世界では盃事が行われています。新年に飲む「屠蘇」
屠蘇(とそ)は、数種類の生薬をお酒とみりんで漬け込んだ薬草酒で、一年間の邪気を払い、長寿を願って元旦にいただくお酒です。 悪魔を払うために薬草入りのお酒を飲むという中国の風習に由来するもの。平安時代に伝わったとされ、今でも元旦の朝に多くの家庭で飲まれています。結婚式でかわす「三三九度」
三三九度(さんさんくど)は、神前の結婚式で新郎新婦が交わす盃のことです。大中小三枚重ねの酒器に御神酒を3回ずつ順に注ぎ、合計で9回の盃を交わします。 3や9などの奇数は縁起が良いという、古くからの言い伝えに由来したものです。酒の神を祀る三大神社
酒と神様は切っても切れない結びつきがあります。古い時代には酒造りそのものが神事とされ、酒造りは工程ごとに祝詞を読みあげながら行われていました。 このような酒と神様の深い結びつきを象徴するように、日本には各地に酒の神を祀る神社もあります。ここでは、日本三大酒神神社と呼ばれる神社を紹介しましょう。
大神神社
奈良県桜井市三輪にある大神神社(おおみわじんじゃ)は日本で最古の神社とされ、酒の二大神である大物主大神(おおものぬしのおおかみ)と少彦名神(すくなひこなのかみ)が祀られています。 大神神社のご神体は三輪山のため本殿を持たず、拝殿が設けられているだけです。三輪山は古事記や日本書紀にも御諸山(みもろやま)、 美和山(みわやま)などと記され、神体山として古くから信仰されています。 毎年11月14日に行われる新酒の醸造安全祈願大祭では全国から醸造家たちが訪れ、1年間無事に醸造を行えることを祈願するのが毎年の光景です。 この日は、拝殿に吊られている大きな杉玉が新しいものと交換されます。この杉玉は別名、酒林(さかばやし)とも呼ばれ、御神体である三輪山に生えている杉の木の枝で作られているもの。醸造祈願祭の後には全国の酒蔵へ小さな杉玉が贈られ、軒先に飾られます。梅宮神社
京都市右京区にある神社で、酒造りの祖とされる酒解神(さかとけのかみ)をはじめ、その娘の酒解子神(さかとけこのかみ)、酒解子神の夫の大若子神(おおわくこのかみ)、夫婦の子どもである小若子神(こわくこのかみ)をまつる神社です。 もともとは京都府南部の綴喜郡井手町にあった橘氏(たちばなうじ)の氏神を平安遷都と同時に現在の場所へ移したとされています。 梅宮神社は酒の神と並び、子授け・安産の御利益でも知られている神社。子宝に恵まれるまたげ石が有名で、本殿の横にある石をまたぐと、子宝に恵まれるという言い伝えがあります。平安時代、御祭神の一柱である檀林皇后がまたいだあと皇子(後の仁明天皇)を授かったと伝えられ、それ以来子授けの石として信仰の対象になっているものです。 お酒に関する行事としては11月上卯の日に醸造安全繁栄祈願祭(上卯祭)、4月中酉日に献酒報告祭(中酉祭)が行われ、全国から醸造家が参拝に訪れています。松尾大社
京都の観光地・嵐山のひとつ手前の駅にある京都最古の神社です。京都盆地の西一帯を支配していた秦氏(はたうじ)により、701年に創建されました。本殿の背後にある松尾山には磐座(いわくら)と呼ばれる神が降臨するとされる岩があり、山の神として崇められてきました。秦氏はこの磐座に神霊の来臨を祈り、建立したとされています。 秦氏には酒造りの技能者が多く、室町時代末期以降には松尾大社が日本第一酒造神と仰がれるようになりました。御祭神は大山咋神(おおやまぐいのかみ)と中津島姫命(なかつしまひめのみこと)です。 境内に入るとすぐ、各地の醸造家が奉納した多くの酒樽が目を惹きます。社殿背後には亀の井と呼ばれる松尾山からの湧き水があり、延命長寿や蘇りの水として人気。これを元水に加えて酒を醸造すれば腐らないという言い伝えがある霊泉です。 毎年、醸造祈願のため11月上卯日に上卯祭を、醸造を終えた感謝のため4月中酉日には中酉祭を開催。全国から多くの醸造家が訪れます。他にも各地にある酒にまつわる神社
三大神社の他にも、酒にまつわる神社は各地に存在しますので紹介します。
摩気神社
京都府南丹市園部町にある摩気(まけ)神社は、弥徳天皇によって770年に創設されたと伝わる古社です。祭神は大御饌津彦命 (おおみけつひこのみこと)で、水や食物を司る神とされています。 酒造りにふさわしい水霊がいるとされる神社で、毎年五穀の豊穣を願う神事が行われています。城山神社
香川県坂出市にあり、神櫛別命(かみくしのみこと)をまつる神社です。 神櫛別命は古事記や日本書紀に名前が出てくる古代日本の皇族で、紀伊、讃岐地方に酒造りを伝えた人物という伝承もある祭神。酒造りの神様として信仰されています。まとめ
酒の神について、いろいろな視点から考察しました。日本において酒と神事は深い関わりがあり、酒は神と人をつなぐものとして重要な役割を担っています。酒神をまつる神社や酒の水霊がいる神社など、酒好きにはかなり興味深いですよね。 日頃楽しんでいるお酒への感謝をこめて、ゆかりのある神社をお参りしてみてはいかがですか?